人海戦術
人海戦術は最近ではそれほど聞かなくなった言葉だが、たしかに今でも生きている古代からの戦術の1つと言えるだろう。
戦術という名の通り、勝つ為の戦いの術である。
人を大量に並ばせ、波のように敵に対して向かっていき、とにかく数で圧倒するというものだ。
今では私達は身近には戦争をしていないから、この「人海戦術」も違ったところで行われている。
現代での戦いと言えるビジネスにおいてだ。
日本に生産人口が多く、単純作業が溢れていた時代はとにかく大量採用して、無駄とも思える人手を割くことで仕事をこなし、前に進んでいった経緯がある。
しかし、ご存知のようにその時代は終わった。
効率が悪いし、何より人がいない。
今日本は先進国であり、サービス業が全盛のフェーズにいる。
だから、単純な作業が発生する場合、賃金の安い国にわざわざ工場を建ててやってもらう。
そんな風にしても儲けが出る。
ところで私は効率化することを好むし、人一倍作業を自分に最適化させるのが上手い。多くの単純作業で私は一番スピードが速く正確だった。
それは何も考えずに作業しているからではなくて、常に頭の中でどの行動が一番無駄が無いか、最短距離はどれだと巡らせながら手を動かしているからなのだが、
結果として空しくなることがある。
単純作業のスピードが速いというのは、賢いとか仕事ができるということと対極にあるような気がしてしまうからだ。
頭より手を動かすという前時代的な人間と思われたくはない。
何より私は人より頭を使っているのだ。
そんなことを思いながらも手は止まらない。
派遣だった頃
人材派遣の会社に登録していたことがある。
まだ、日雇い労働のような働き方が許されていた時代で、一日働いては現金で報酬をもらっていた。
仕事内容は主に、スーパーでの試食・試飲だった。
インスタントコーヒーの試飲販売が多かったが、新発売のあめなどの時もあった。
インスタントコーヒーの場合は、温度が大事だった。
淹れたてをすぐに渡すと熱すぎて嫌がられたし、今度は冷めていてもダメだった。
それで、むこうからお客さんが多く来ているなと思ったら、たくさん作っておいて、なるべく適温にして手渡すのだ。
そうするとお客さんも喜んで、よく買って行ってくれた。
「お姉さんのために買うからね。」などと言ってもらえた時は嬉しかった。
また、あめの時は楽だった。来る人来る人にほいほい手渡すだけで、喜んで受け取ってもらえる。
その日のあめの売れ行きは素晴らしく、一日で全体の三分の二は売れてしまった。
他にも、工場での流れ作業に従事したこともあった。
確か、ベルトコンベアーに乗って流れてくる段ボールを、ひたすら潰す仕事だったと思う。8時間くらい働いたあと、手がしわくちゃになっていたのを覚えている。
そんなふうに2か月くらい働いた。
そんな働き方も、当時の自分には都合が良かった。
今日はどこに行くんだろう、どんな仕事をするんだろう、とワクワクしながら働いた。
もうあんなふうに働くことはないけれども、今でも試飲販売のお姉さんを見ると、懐かしく思い出すのである。