アルバイトと笑顔

私は東京に出て来てから一番苦労したのはお金のことだ。
もちろん今まで沢山のアルバイトをしてきたし、他のお金の稼ぎ方も見つけた。
だが最初は東京の常識を知らずにいたこともあり、アルバイトの面接に落ち続け、時給の良くない仕事をしなければならなくなった。

そうしている内にお金は回らなくなり、生活ができなくなる。
私には素直に正直に話せばわかってくれるだろうという意識があった。
アルバイトは求人を出しているわけだし、基本的に受かるものだと思っていた。
でも違った。
もっと自信を持って、眩しい笑顔で「お店を日本一にします!」と元気よく言える、そんなアルバイトを東京のお店は求めているのだとあとからわかった。
私はどんな風に面接を担当した社員に言っていたかと言うと、「私は正直笑顔が苦手ですが、仕事を覚えていけばきっといい顔でお客様に接することができます」というようなことだった。
笑顔が得意な子を採るのが東京の常識だ。
特に東京に限ったことではないが、私の人生において自分のウィークポイントを晒すというは日常的なことであるようだ。
それが通用するような世界に住んでいたとも言えるし、私の人柄や人格が周りにそれを許させていたとも言える。
そんなわけでアルバイトに就けなかった悔しい思い出ではあるのだが、1ついまでも心に残ることばをくれた面接官がいた。
その方は女性で、お店はある業界の最大手チェーンで日本一の売上を目指す店の社員だ。
彼女は、私は笑顔が苦手だと言ったことに対してこう返答した。
「人間の顔っていうのは、25歳までは持って産まれた顔から出る表情をするけれど、25歳からはその人が自分の顔をつくるんだって」
つまり、生まれ持った顔がいい表情で笑顔が得意という人もいるが、それは若い頃までで、年齢を重ねると自分がつくる表情がその人の顔になっていくということだ。
それから1年も経たない内に「いつも笑顔だよね」と友達に言われるようになった。

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